春
陵(みささぎ)の駅近くあり春の暮
橘の実なる下に写生かな
白と黄の金雀枝映ゆる都跡
寄り合いて春の日差しに奈良の鹿
守られつ奈良の鹿臥す花の影
奈良町や柳しだれて暮の鐘
奈良町や雲に滲みて月光る
一品の抹茶茶碗や夕桜
鐘鳴りて旅人帰る夕桜
法隆寺
春の日や鳩むつみあう法隆寺
夢殿に太子休らふ花の影
築地塀に一日写しぬ花の影
夢殿や花散る後の余韻かな
秋
千歳古る大仏黒き秋の暮
晩秋や奈良には古き壺二つ
千歳古る大仏黒き秋の暮
橿原の市や家々菊の花
朝静か藤原京跡秋の蝶
奈良の秋出会町に出会橋
山鳩の鳴いて落葉の文殊院
枕元菊さし迎えし奈良の宿
三重塔二つ巡るや秋桜
柿なりて奈良の街道旅の人
奈良に古る大和棟の家柿なりぬ
バスとまる五軒屋とあり秋日和
奈良の人と交わり過ごすや秋日和
稲刈られ五軒屋あわれ旅の道
旅路来て着物の女性や奈良の月
壺古りて着物の女性奈良の月
奈良の路地交じり出会うや秋の蝶
夜のふけて時雨の音や奈良の宿
韓藍に菊の畑や奈良の道
秋日和猫の眠れる奈良の駅
西の京なお散り積もる木の葉かな
秋日さす古りし跡見橋渡りけり
冬
奈良公園親子の鹿やひなたぼこ
奈良の古道に舞うや冬の蝶
三輪山に人を入れぬと冬日暮る
千歳経し寧楽の都や冬牡丹