
餌やると川に来れば白鳥のすでにたちけり鴨のみの寄りて来るかな
白鳥の美しき姿今はなし面影にこそ見ゆるものかも
白鳥(しらとり)の沼に寂けく触(さ)やるもの夕つ光(かげ)かな波もたたずに
教会の古塔を映す晩秋の湖に白鳥の白さのみ映えぬ
厳かに晩秋の湖に古りにける教会の鐘ひびき白鳥浮かぶ
白鳥は昨日飛び立って行った。白鳥はやはり神の鳥である。その貴品は比べるものがない、ヨ−ロッパでは何かこの白鳥が古い沼に浮かび古い教会の塔が映り沈んだ鐘の音がひびく、そこに白鳥が一羽王子のように浮かんでいる。白鳥はヨ−ロッパの歴史と風景に溶け込んでいたのだ。だから白鳥の伝説が多いのである。これはドイツのボ−デン湖だった。あそこもなんとも侘しい感じの湖だった。古城と湖の絵のような風景がヨ−ロッパには多い。
大津皇子(おほつのみこ)、死を被(たまは)りし時に、磐余(いはれ)の池の堤にして涙(なみた)を流して作らす歌一首
百(もも)伝(づた)ふ 磐余(いはれ)の池に 鳴く鴨(かも)を 今日(けふ)のみ見てや 雲(くも)隠(がく)りなむ
大津皇子は白鳥だった。だから若くして死んだときそのあとの寂寥感は大きかった。その美しい皇子は天に昇っていったのだ。そのあとに残ったのは庶民のような鴨だった。白鳥と鴨の対比によって白鳥は貴公子であり王子である。鴨を見て別れたのだが自らは白鳥だったのである。白鳥は鳥では最高の美を象徴したもので魅せられるのである。