2007年02月04日

出代(でがはり)(出稼ぎ者、奉公人)と江戸−一茶の句の背景を読む

卯平は年末の出代(でがはり)の季節になれば其の持病を苦にして、奉公もどうしたものかと悲觀することもあるが、我慢をすれば凌げるので遂居据りに成つて居るうちに何時でも春の季節に還つて、郊外に際涯もなく植られた桃の花が一杯に赤くなると其の木陰の麥が青く地を掩うて、江戸川の水を遡る高瀬船の白帆も暖く見えて、大きな藏々の建物が空しく成る程一切の傭人が桃畑に一日の愉快を竭(つく)やうになれば病氣もけそりと忘れるのが例であつた(長塚節−土)
 
かつて奉公人が雇用期間を終えて交代する「出代」は、1年契約では陰暦2月または3月がその時期。そして初めて「御目見得」した奉公人が「新参」。(ちなみに「出代」、「御目見得」も立派な季語)

出代が駕にめしたる都哉

ほろつくや誰出代の涙雨

  門雀なくやいつ迄出代ると

五十里の江戸[を]出代る子ども哉

出代や直ぶみをさるゝ上りばな

  出代や閨から乳を呼こ鳥

  出代やねらひ過してぬけ参

今の世やどの出代の涙雨


「出代り」は今死語であり使うことがない、出て代わるというのは江戸から出たり入ったりする出稼ぎ者とか奉公の人である。新年になるとそういう人が多数出るから新年の季語になった。これも江戸時代の背景を読まないとわからないのだ。

五十里の江戸[を]出代る子ども哉

これも五十里というからそんなに遠くないのだ。江戸の近辺の村から働きに来た奉公に来た子供である。子供が働かせられたのは江戸時代では普通だったろう。インドとか貧しい国では子供が働いているのが多いのだ。 「出代や閨から乳を呼こ鳥」これも働くものが子供だから幼いからそうなった。「今の世やどの出代の涙雨」これも奉公するということが辛いから涙雨となる。子供は親元を離れて働かねばならない時代である。 出代や直ぶみをさるゝ上りばな これも安く働かせられる奉公人を言っていた。これは中国とか他の貧しい国では今でも考えられない低賃金で働いている。これと似ていたのが金の卵として働きに出された集団就職の中卒の人たちだった。これもかなり辛いものだった。私の兄は円形脱毛症とかになったり適合できない人もいて辛かったのである。一茶も奉公人として江戸に出てきたのだから身をもって辛さを味わっているから同情したのである。これは今の中国の上海とか北京でも同じ風景がある。 出代が駕にめしたる都哉 中国は今や億万長者がごろごろいる。特に都市には多い。その中で低賃金で奴隷のように働かせられる出稼ぎ者がいる。お手伝いとして雇われる女性も多い。都会と田舎の大きな格差がこうした金持ちと貧乏人の人生模様を生み出したのだ。中国には三回行ったからある程度肌で感じたからわかったのだ。

 越後衆が歌で出代こざとかな

 江戸口やまめで出代る小諸節

 江戸口や唄で出代る越後笠


江戸時代の興味は地方色が豊かなことなのだ。地方には様々な民謡があり自ずと江戸でも歌われていたのだ。越後笠というものもありそれを見れば越後の人だと人目見てわかったのである。江戸時代は地方色豊かだから旅したら興味も尽きないものとなった。関所は外国へ行く国境と同じだったのだ。

越後節(えちごぶし)蔵に聞えて秋の雨−一茶

造り酒屋の秋元家に建ち並ぶ蔵に越後(新潟県)から※杜氏(とうじ)が来ており、彼らが歌う民謡が秋の雨の中でしみじみ聞こえたようです。
http://www.edogawa.go.jp/200610/story/index.html

これはしんみりとしていい俳句である。私の父も山から町へ下りてきて酒屋の杜氏になり丁稚として働いたのである。

椋鳥一群れ鴻の巣へとまり

椋鳥はよせ米の直(まま)が四十から

椋鳥に引導渡す馬喰町

椋鳥も毎年くると江戸雀


椋鳥は冬に餌が少なくなるから山から里へ町へ移動する漂鳥だという、冬の季語なのである。でも今は環境が変わり東京では夏に多いという、冬ではなく夏の鳥になってしまったのだ。椋鳥はよせ米の直(まま)が四十から−これは出稼ぎ者は米を多く食うからこの句ができた。江戸では白米が食えた。江戸に米が集まった。そして白米ばかり食うから江戸患いの脚気(かっけ)になったのだ。地方では稗と粟とか五穀を食っていたからならなかったのだ。

ともかく江戸時代の俳句でも常にその背景を読むことが勤めになる。万葉集の一首でも背景を読まないと鑑賞できないのだ。昔の文学は歴史的自然的地理的背景を知らないと鑑賞できない。その背景を読むにはインタ−ネットで調べたり本を調べたりと編集作業が必要になる。
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