2009年03月24日

春を待つ土手の桜並木(風の話)


春を待つ土手の桜並木(風の話)

 
この町の川の土手には一四五本の桜並木が立っていました。そこでその木々がささやいていました。
 

風が吹こうとみんな一列に並んで
しんぼうしていれば春が来る
びゅ-びゅ-風が吹こうと
みんな並んでしんぼうしていれば
春が来て花をいっぱい咲かせる春がくる

 

「昨日は東風(こち)吹いたけど今日は北風がうなって吹いてくる」
「春北風(はるきた)だよ・・・・」
「春になって吹く北風だな・・・・本当の春はまだか」
「東風(こち)も荒東風(あらこち」と言って荒い風だよ」
「この頃風が強いんだよな」
「オレタチが花を咲かせるのはまだか」
「もう少しのしんぼうだな」
風にはいろいろあります。東風(こち)は東から吹いてくる風、この風が吹くと春が近い、でも今頃は北風と東風が交互に吹く時期です。でも春は近いのです。すでに猫柳も出て近くの公園の木蓮も大きな芽を出しています。やがてこの桜並木も満開の花を咲かすでしょう。
また土手の桜並木の樹々は話ししていました。
「東風(こち)は海の方から吹いてくるな」
「ここは海が近いからな」
「海がないなら山からも吹いてくる、それで有名な歌知っているだろう
東風吹かばにほひをこせよ梅花 主なしとて春を忘るな・・・・・」
「ああ、それか、それなら有名だから知っているよな、京都の偉い方が残したものだ、
東山があって東山の方から吹いてくるからその歌ができて東風(こち)が有名になった」
「普通は東風というと海から吹いてくるのが多い、風もその土地土地によっていろいろに吹くんだよ」
「そういえば、梅も咲いたらしく梅の香りがここにも流れてきたみたい」
「そうそう、あれは確かに梅の香りだったな、なんともいえぬ気持ちいい香りだ」
そこでまた春北風がびゅ-んびゅ-んと桜並木にうなり吹きつけました。話はまだつづいています。
「また春北風(はるきた)が吹きつけるな、春がくるまではやはり長い、本当に長い」
「そうだ、この前までだって雪からみぞれふったしな、寒いんだよ」
「今年はどうも寒いな、いつもの山脈を見ても春の山という感じがしない」
「雪も残っているし春の山じゃないな」
その時ヒヨドリがけたたましく飛んで鳴いて枝に止まりました。
「ヒヨドリさん、寒くないかい」
「うう、寒いよ、でももう少しで春になるよ」
「オレタチも満開の花を咲かせるからな」
「その時はまた喜んで飛んでくるよ、ここに、ここの花はいつもみごとだよ」
次に飛んで枝にとまったのはジョウビタキでした。
「ジョウビタキさんの羽は美しい、そしてスマ-トだ、白い点があるからすぐわかる」
「ジョウビタキさん、そろそろ帰るころじゃない、まだまだでしょう」
そのうち、またジョウビダキはどこかへ飛んでゆきました。
ヒヨドリはまたけたたましく枝をはじくようにして飛んでゆきました。やがて夕方となり月がでました。今日の月は満月です。こうこうと明るく輝いていました。
「それにしてもまだ白鳥は帰らないな、今年はいつ帰るのかな」
「そうだな、あたたかい日もあったからその時帰る思ったけどな」
白鳥は川にまだ群れをなして一〇羽ほどいました。今年はまだ帰らないでいるようです。
「あの月もまだ春の月じゃない、冬の月だよ、冷たく輝いている」
「そうだな、春の月という感じじゃない、星も冬の星だよ」
「一気に春は来ない、じょじょに季節は移っていくんだよ」
「そういうことだな、天地のリズムには逆らえねえ」
「そうだよ、天地のリズムにはみんなしたがうほかないよ」
「寒さも必要だし、寒いから身もひきしまる、いつもあたたかったらぼ-として馬鹿になってしまうよ」
「寒さはつらいけど寒さがあるからあたたかい春がまちどおしくなる」
「それも神様のはからいだよな」
「そういうこと、そういうこと、天地のリズムにしたがうほかない」
「春は待つほかない、待っていれば春は確実にやってくるよ」
町はまたしんとして静まり空には星が冷たく輝いています。白鳥はその星の輝く星座の下で静に白さまして眠ってゆきます。白鳥は寒いときに一段と映えます。
「おい、まだ眠らないのかい」
「今日は星が美しいのでみとれていたよ」
「やはり寒いときの星はすんできれいだな」
「白鳥も寒いときこそ一段と美しい、白さが映えて美しい」
「白鳥が群れて飛ぶときも美しい」
「白鳥は本当に冬の星座になるにふさわしいな」
土手の桜並木はこうして話しして春のくるのをみんなで並んで待っているのでした。
今日はまた三月も終わろうとしているのになお強い冷たい風がびゅ-びゅ-吹きつけていました。
「もう花も咲こうという時期に今日の風はなんだい、強い風だよ」
「鶯も鳴いたのにこれじゃ鳴きやんでしまうな」
そうして一日強い風は桜の並木に吹きつけました。
「春は本当になかなか来ないな、この風が終わればもう花は咲かせなきゃ」
そんな話をしてまた夜になりました。
「夜空の星を見るとやはり春の星なんだよ、冬の凍てつく星とは違う、やさしくなごむ感じなんだよ」
「やはり春は来ているんだよ、春の星のきらめきは冬とは違うよ」
夜まで風はうなっていましたがこうして桜並木はささやいていました。今年は確かに寒いのかもしれません、でもやはり確実に春はそこまできているのです、寒さの一時の戻りはあるのはいつものことです。そろそろ花が咲いてまた花見の人は通るでしょう。その時風もおさまり、鶯はのどかに鳴くでしょう。桜並木はその鳴き声をゆったりと聞いているでしょう。

posted by 老鶯 at 21:19| Comment(1) | TrackBack(0) | 童話
この記事へのコメント
>「寒さはつらいけど寒さがあるからあたたかい春がまちどおしくなる」
「それも神様のはからいだよな」
「そういうこと、そういうこと、天地のリズムにしたがうほかない」
「春は待つほかない、待っていれば春は確実にやってくるよ」

童話ってシンプルですが人生における味わい深さがありますね。肩が凝らないし、人として忘れがちな感謝する謙虚さや初心や冷静さやを素直に取り戻させてくれますね。

この御話しを読んで「葉っぱのフレディ」を思い出しました。「初めての経験は誰でも怖い
世界は変化し続ける 葉っぱも木も死ぬ   いのちは永遠に続く フレディは冬が終わると春が来て 雪は解け 水になり 枯れ葉のフレディは その水に混じり 土に溶け込んで 
木を育てる力になる 命は土や根や木の中の
目には見えないところで 新しい葉っぱを生み出そうと準備をしている 大自然の設計図は寸分の狂いもなく 命を変化し続ける」(一部引用)秩序正しく地球は動いていて天地のリズムに従うほかない。私達人間は、特に高齢になり体が衰えていくと、人は何処から来て何処へ行くのか…生きるとは、どういうことだろう?死とはどういうことだろう?生きている限り、答えがなかなか見つからず自問自答を繰り返しながら、結局は天地のリズムに従い、厳しい寒さをじっと耐え忍び、冬にしかない冬の清さを堪能しつつ、温かい春を迎える…待ち望んでいた桜の開花期の短さや散りゆく儚さは、新しい命を芽生えさせる為の準備役となり命は引き継がれ永遠に続くという事なのでしょうか。人為社会は自然界の力には勝てない無力さを知らしめてくれています。童話の良さが理解出来る人は大人であり、ストレス解消法も心得ていて生きかた上手なのではないかな〜?私見です。
  
Posted by たまもと あゆみ at 2010年07月01日 22:08
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