十数羽そろそろ帰らむ秋燕
虫の音や家に帰れぬ老婆かな
整然と羽ばたき強く雁の列
乱れずに星座とならむ雁の列
燕がみかけないと思っていたら山の方に結構いた、十数羽が電線にとまっていたからだ。病院にいる老婆はしきり家のことを言っていた。あの家は苦労して建てたからな売りたくない、施設に入るからと売った人もいたが私は売りたくないとか何度も言っていた。息子らしい人が東京にいるが仕事がないから帰れないとというのもわかる。取り残された老婆が一人いる。こういう人も今は多いだろう。あの老婆も病院にどれくらいいるのか、結構長いのか三度も入院しているという、一人暮らしはなかなかできないので帰れない、施設にも入れないから病院にいる。虫のように鳴いているのが老人である。同じことを何度も言っている。でもどうにもならないから言っている。老人はどうしても家に愛着あるのはわかるのだ。そこが長年暮らしたところだからそうなるし家で死にたいとはいうのもわかるがこれはもはや無理になっている。負担が大きすぎるのだ。
雁が十羽以上三角形に隊列を組んで力強く飛び去った。それがすぐ頭上だったのだ。こんなに近いところでこれだけの雁が見事な隊列を組んで飛んだのを見たのははじめてである。この年になっても実際生々しい自然の姿にふれることは少ないのだ。こういうことは偶然だからだ。またより自然が豊かなところでないと接することができないからだ。あの雁のわたる列は本当に気持ちよかった。自然は雁の列のように常に調和の力がある。白鳥だって隊列組んで飛んでいる姿は本当に美しい、それが星座になってしまうというのがわかる。自然は神の業であり奇跡だからその美は人間で作りえないから感嘆するのだ。なぜ一糸乱れず隊列を組んで飛ぶのか、人間なら兵隊のように一糸乱れぬ行進は不自然であり嫌なのだが自然では全くそういうことがない、大空に映えるその雁の列はまさに芸術的であり魅了されるのだ。暑いと思ったらやはり季節は確実に秋になっていたのだ。